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東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)171号 判決

千葉県銚子市君ヶ浜町八六四六の二

原告

山崎潤一

東京都千代田区大手町一の七

東京国税局長

高木文雄

右当事者間の標記事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

原告提出にかかる訴状及び釈明書によれば、原告は被告が昭和四四年二月一四日付でした裁決(訴外銚子税務署長がした原告の昭和四二年度の所得税の更正並びに加算税の賦課決定に対し、原告がなした審査請求を棄却したもの)の取消しを求めるものであるが、本件訴状が当裁判所に受理されたのが昭和四四年八月一六日であることは記録上明らかであり、一方、被告の裁決書が原告に送達され、原告が右裁決を知つたのが昭和四四年三月一日であることは原告自ら認めるところである。してみれば、本件訴えは、原告が右裁決のあつたことを知つた時から五ケ月半を経過して提起されたものであつて、行政事件訴訟法第一四条第一項所定の出訴期間を徒過した出訴であるといわなければならない。

原告はこの点に関し、被告に対し、(一)昭和四四年三月三日及び(二)同月一三日の二回にわたり、右裁決の内容上の疑義を照会し、更に、(三)同年五月七日その回答を催告し、ついで(四)同月二一日(1)納税者の疑義の照会に対し、被告に回答の義務はないが(2)右裁決について不服がある場合これを争う方法はないかの二点を照会したところ、被告より、同年六月二日前記(一)の照会に対する回答を得、また同月九日付で前記(三)に対する回答を得たが、これによれば、「審査請求に対する不服がある場合には、訴訟による方法しかありません」ということであつたので、はじめて、訴訟による以外に不服申立て方法のないことを知つたものであり、その間、荏苒として手を拱いていたわけでもないから、出訴期間の経過後に本件訴えを提起するについては正当な理由があつたものであつて、行政事件訴訟法第一四条第三項但書に該当すると主張する。

しかし、本件訴えは裁決の時から一年以内で、原告が裁決のあつたことを知つた時から三カ月をこえた後に提起されたのであるから、その出訴期間については行政事件訴訟法第一四条第一項を適用すべきであつて、同条第三項但書を適用する余地はない(なお、同条第一項を適用すべき場合においても、当事者の責に帰すべからざる事由に基づいて出訴期間を遵守できなかつたのであれば、民事訴訟法第一五九条の定める救済方法が存するが、本件訴えの提起につき同条所定の要件に該当する事実があつたという主張はない。)のみならず、原告主張の前記事由は結局、法律を知らなかつたため本件訴えにつき出訴期間を守ることができなかつたというに帰するものと解せられるところ、法律の不知は、それだけでは正当な事由乃至当事者の責に帰すべからざる事由を構成するものと考えられない。

したがつて、本件訴えは出訴期間不遵守の点において不適法たるを免れず、その欠缺を補正することができないものというほかはないので、民事訴訟法第二〇二条に従つてこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき、同法第八九条に従つたうえ、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 駒田駿太郎 裁判官 小木曾競 裁判官 山下薫)

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